第1回 ヒューリック 学生アイデアコンペ
隈 研吾

隈 研吾 審査委員長

銀座の高速道路のすぐ脇といった種類の、現代的で複雑な敷地を、今時の学生に与えて、リアリティのある案を出せ、といってはたしてどんなものが提出されてくるのかと、実は心配であった。ところが、出てきたものはレベルが高く、ある意味で予想を裏切られた。日本の学生は、このようにして、拘束、制約を厳しく課して、そこから何とか解を出せとお尻を叩くやり方の方が、向いているのかもしれない。日本人のねばり強く、精密な思考方法が、このような課題の設定に適しているのである。
しかも、上位の案を見ると、リアリティだけではなくて、そこに鋭い社会的な問題意識も垣間みえて、感心させられた。最優秀案のようなオフィスがここにできあがったなら、オフィスのワーカーに快適な環境を与えるだけでなく、高速道路という都市インフラと隣接する建築物とが一体となって、ひとつの複合的な環境構造としても機能するという可能性までも示唆するような提案であった。スポーツ施設が立体的に積み重なった案も、単に、垂直的に統合されるだけでなく、スポーツ施設の前面のオープンスペースの複合が、都市の新たな公共的外部空間の可能性を示唆していて、魅力的であった。
あらためて、日本の学生の優秀さを見て安心したが、同時に建築教育とは、建築哲学という机上的概念からはいらずに、徹底して、その敷地、その地面からボトムアップ式に組み上げていった方が成果があがるかもしれない、ということを考えた。その場所からスタートする訓練をしないと、とんちんかんで、独りよがりの建築ができやすいのである。ヒューリックという、新しいタイプのディベロッパーが主催するこのコンペは、そのボトムアップ的思考法を鍛え、浸透させる場として、大きく育って欲しい。

伊香賀 俊治

伊香賀 俊治 審査委員

今回、非常に現実的で構成のしっかりした提案が多かったと感じました。また、今の学生の皆さんが、環境問題等に対して真剣に考えようとしていることを頼もしく思いました。このコンペの舞台となっている7年後の東京には、低炭素社会の実現や災害時の事業継続性を確保した良好な社会資産の形成が求められます。同時に知的生産性を向上させる快適な空間も必要です。最優秀に選ばれた「都市のプランター」はまさにそういった課題に正面から取組んだ提案でした。近未来のオフィスのあり方に対するひとつの提案として、大胆な緑化によるシンボリックな外観と魅力的な空間を提案してくれました。また、優秀賞に選ばれた「CLIMA CITY」は、環境を考えるときにあまり着目されてこなかった、土壌に着目したところがユニークでした。今後も学生に対して、環境、BCPといったリアリティのあるテーマを投げかける画期的なコンペが継続されることを期待しています。

亀井 忠夫

亀井 忠夫 審査委員

2020年オリンピック開催地が東京に決定した。世界の都市間競争で生き残るためにこのチャンスを利用しない手はない。入賞作品を選ぶ上で、実現性のリアリティとともに、このCOMPLEXが東京の名物になるか?という視点にこだわった。最優秀作「都市のプランター」は、その内外に銀座の中で非常に爽やかな空間を創るであろう。水耕栽培の企業の本社と賃貸オフィス他を設定しており、運営面も考えていてリアリティが高い。優秀作「SPORTS COMPLEX 2020」はアリーナなど、規模の異なる多様なスポーツ施設を積層させ、特徴ある断面形態としながら空中広場を設けた点にユニークさがある。強さの感じられるデザインである。同「CLIMA CITY」は地面と繋がった厚い土に魅力を感じた。

根本 祐二

根本 祐二 審査委員

1990年代以降、企業数や従業員数を減らしてきた産業がある。建設、不動産、そして私が長年属してきた金融である。これら3業種は、企業や自治体が資産を取得することを前提にビジネスモデルを組み立ててきた。右肩上がり経済では資産取得が有利だが、バブル崩壊後の右肩下がり経済では資産は重荷になる。かくしてリストラが進んだ。今後の人口減少を考えると、さらに企業や自治体は資産を減らすに違いない。若い世代には、それでも成り立つ3業種のビジネスモデルを追求してもらいたい。今回のコンペでは、その点への提案を期待した。期待通り、新鮮で独創的な提案が少なからずあった。用途に応じてハードを固定せず、時間の変化に応じて用途を変えられるようにした「可変性」、都市のスプロールを解消し集住させる「コンパクト化」は、社会のニーズにこたえるアイデアだ。こうしたアイデアを膨らませて、おじさんたちの度肝を抜くような未来のまちをデザインしてほしい。

畠中 克弘

畠中 克弘 審査委員

建築の雑誌を編集していて、最近少し気になるのは、ワクワクする建築が国内に少なくなってきたのではないかということだ。どこか小さくまとまりがちで、ともすれば予定調和的になる。環境負荷を軽減することも事業性を高めることも大事だし、小さくまとまることは必ずしも悪いことではないけれども、グローバル時代に都市の魅力を競うことを考えると、突き抜けたワクワク感や心地よさを体現する建築の登場が待たれる。今回のアイデアコンペは計画地が東京・有楽町に設定されていたこともあり、そうした観点を重視して応募作を審査した。最優秀作「都市のプランター」や優秀作「SPORTS COMPLEX 2020」などには、その場所にふさわしい魅力を感じた。2次審査に残らなかった応募作にも力作が多く、学生の皆さんの意気込みに刺激を受けた。これからもぜひアグレッシブな姿勢で魅力的な建築や都市を提案していってほしい。

西浦 三郎

西浦 三郎 審査委員

本コンペは、2年後当社が実際に開発を予定している敷地をテーマとしているだけに、審査委員という立場に加えて事業者という立場から、「採算性」という観点で審査をしました。そういう意味で注目した作品は、優秀作に選ばれた「SPORTS COMPREX 2020」です。今回のテーマに対してあまりにも直接的なメッセージではありますが、最近の有名アスリートが高額のスポンサー契約を結んでいる状況を考えると、実現性の高いアイデアではないかと思います。また、最優秀作の「都市のプランター」、優秀作の「CLIMA CITY」はいずれも環境という切口で、オフィスの付加価値を向上させるアイデアであり、当社の取組みとも通じるところがあり、現実的な提案であると感じました。その他の作品も、今後の国際化・少子高齢化社会のニーズに対してそれぞれに独創的な提案をした力作ぞろいであり、応募していただいた全ての学生さんたちに感謝しております。来年もまた当社の実際のプロジェクトをテーマにしたいと考えておりますので、楽しみにしていてください。

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