TNFD提言で示されているLEAPアプローチに沿い、短期・中期・長期の時間軸*1で当社事業の自然に対する依存・影響及びリスクと機会を特定しました。

自然の依存・影響・リスク・機会の特定・評価・優先付けのプロセス

当社グループの事業セグメントは、不動産事業、保険事業、ホテル・旅館事業、その他事業から構成されますが、今般のTNFD開示では、当社グループの主要な事業であり、自然に対する影響が大きいと考えられる、不動産事業(不動産賃貸事業・不動産開発事業・バリューアッド事業)を対象としています。また、不動産開発事業・バリューアッド事業については、バリューチェーン上流の建物の建設事業も対象に含めて、自然に対する依存・影響の把握を行いました。依存・影響の分析の結果、「非常に高い・大きい」「高い・大きい」と評価した依存・影響から想定されるリスク・機会の特定を行い、当社事業との関連性の観点から特に優先度が高いリスク・機会の特定・優先付けを行いました。

依存に関するヒートマップ

分析ツールENCORE*2を用いて、当社事業の自然の各サービスに対する依存を示すヒートマップを作成しました。

  • 不動産開発・バリューアッド事業:調整サービスの内「土壌侵食防止」への依存度が高く、その他「気候調整」や「災害抑制(洪水抑制・台風抑制)」等依存度が中程度の項目があり。
  • 不動産賃貸事業:文化的サービス(感覚的な快適性の提供)への依存度が非常に高い。
生態系サービス 不動産開発・
バリューアッド事業
(直接操業/上流)
不動産賃貸事業
(直接操業)
供給
サービス*3
水資源    
調整
サービス*4
気候調整    
雨量調整    
大気の浄化    
土壌侵食防止    
水質改善    
水流調整    
洪水抑制    
台風抑制    
騒音緩和    
文化的
サービス*5
感覚的な快適性
の提供*6
   

生態系の各サービスへの依存度

非常に高い
高い
中程度
低い・非常に低い
  • *1時間軸:当社が環境問題対応を考える時間軸は環境長期ビジョン・温室効果ガス排出量削減目標と連動しています。今後、自然関連事項に対する分析を拡大させていく場合、時間軸の見直し検討を視野に入れてまいります。
    (関連ページ:TCFD提言に即した情報開示 – 戦略
  • *2ENCORE:自然資本金融アライアンスが開発した業種別の自然への依存・影響の重要性を可視化したツール。
  • *3供給サービス:生態系が食糧、水等の資源を人類へ提供する機能。
  • *4調整サービス:気候調整や災害の緩和等の生態系が環境保護に寄与する機能。
  • *5文化的サービス:自然に触れることで心理的安らぎ等の影響を自然が人間に対して与える機能。
  • *6感覚的な快適性の提供:建物利用者が自然環境のもたらす快適性を感覚的に享受すること。

影響に関するヒートマップ

分析ツールENCORE*1を用いて、当社の事業が自然のどの要素に影響を及ぼしているかを示すヒートマップを作成しました。

  • 不動産開発・バリューアッド事業:「騒音・光 等」で非常に大きい、「土壌・水質汚染」の項目で大きい影響を与えており、万一環境に配慮した開発が行われない場合、悪影響を与えてしまうリスクがある。
  • 不動産賃貸・開発・バリューアッド事業(共通):「GHG排出」の項目では自然に大きい影響を与えている。
影響ドライバー 不動産開発・
バリューアッド事業
(直接操業/上流)
不動産賃貸事業
(直接操業)
GHG排出    
GHG以外の大気汚染    
固形廃棄物    
土地の利用(農地、工場他)    
土壌・水質汚染    
水使用    
騒音・光 等    

自然への影響度

非常に大きい
大きい
中程度
小さい・非常に小さい
  • *1ENOCREでの分析結果に加えて、不動産事業が各影響ドライバーに与える影響度を考慮し、影響に関するヒートマップを作成しています。

リスク・機会の特定・優先付け

上記の依存・影響の分析の結果、「非常に高い・非常に大きい」「高い・大きい」と評価した依存・影響から想定されるリスク・機会の特定を行いました。TNFD提言では、自然関連事項のリスク・機会について、物理的リスク(急性、慢性)、移行リスク(政策、市場、技術、評判・賠償責任)、機会(市場、資本フローと資金調達、資源効率、製品とサービス、評判資本、自然資本の持続可能な利用、生態系の保護・復元・利用)に分類しています。当社は、この分類に従い、リスク・機会を特定し、当社事業との関連性の観点から特に優先度が高いリスク・機会を抽出し、以下に記載しています。

特定したリスク

大区分 リスクの類型 リスクの内容
物理的リスク 急性リスク 土砂災害、地震等の自然災害リスクの増大
慢性リスク 自社開発施設周辺地域の自然環境及び景観の悪化に伴う資産価値の低下
移行リスク 政策 温室効果ガス排出量削減や自然保護強化の規制に対して追加対応の必要性
市場 自然環境問題対応遅延に対する投資家からの評価低下
技術 環境対応技術導入に伴うコスト増加
評判・賠償責任 物件地域の生態系が破壊した場合のレプテーション低下、賠償リスクの発生

特定した機会

区分 機会の内容
市場 自然環境に配慮した建物の需要拡大・森林サイクルの循環に貢献する木造建築需要の拡大
資本フローと資金調達 環境対応に関する資金調達手段の拡大・補助金の拡大
資源効率 建物の環境性能・廃棄物削減技術の進展
製品とサービス 建物利用者の自然保護意識の高まりにより、環境認証等を取得した建物への評価向上
評判資本 サステナブル経営の推進による企業価値の向上
自然資本の持続可能な利用 建設資材のサステナブル調達の進展
生態系の保護・復元・利用 開発物件での緑化の推進や植林活動により、生態系の保護に貢献

優先地域の特定と評価

当社は245物件(2024年12月末時点)を保有しており、その約7割が東京23区に集中しているため、東京23区を対象として、優先地域の選定を行いました。IBAT*1を用いて、東京23区南西部・北西部・東部*2の自然保護地域の状況を確認したところ、国定*3やKBA*4等の一部自然保護地域が確認されました。自然保護地域の分布状況は、東京23区南西部・北西部・東部ともに大きな差がないことが確認されたため、当社の事業活動が自然への影響を及ぼす可能性の高い優先地域の選定に当たっては、東京23区の内の特定のエリアではなく、東京23区全体と致しました。また、優先地域における当社物件の所在する地域は、国定・KBA地域近辺ではなく、既に建物がある地域における開発や建物の保有が大半でした。さらに、水リスクについては、Aqueduct*5を用いて確認を行った結果、優先地域を含む当社事業エリアにおいては水ストレス*6が高い地域は含まれませんでした。
上記を踏まえて、優先地域において、当社事業が自然にもたらす影響は極めて小さいと評価しました。今後も、当社の開発案件における緑化の推進・JHEP認証制度*7の活用・その他環境配慮技術の積極的な導入等を通して、自然環境に配慮した事業運営を推進してまいります。

東京23区の自然保護地域

IBATを用いた、東京23区南西部・北西部・東部、自然保護地域の状況*8の確認結果は以下の通りです。

自然保護地域種別
  固定 KBA ユネスコMAB*9
東京23区南西部     -
東京23区北西部     -
東京23区東部     -
該当有り
該当なし -
  • *1IBAT:IUCN(国際自然保護連合)を含む4団体により開発された、対象地点周辺の自然関連情報を確認できるツール。
  • *223区南西部:港区、渋谷区、世田谷区、千代田区、大田区、中央区、品川区、目黒区
    23区北西部:新宿区、杉並区、中野区、板橋区、文京区、豊島区、北区、練馬区
    23区東部:葛飾区、江戸川区、江東区、荒川区、足立区、台東区、墨田区
  • *3国定:国立公園など、法律に基づき、一定の開発・捕獲規制などの行為が制限されている保護地域。
  • *4KBA:Key Biodiversity Areaの略称で、生物多様性の保全の鍵となる重要な地域です。日本全国で200以上の場所がKBAに登録されています。
  • *5Aqueduct:世界資源研究所が提供するエリア毎の水リスクを把握するツール。
  • *6水ストレス:水需要がひっ迫している度合。
  • *7JHEP認証:(公財)日本生態系協会が運営する、生物多様性の保全や回復に資する取り組みを定量的に評価する認証制度。
  • *8各エリアから一部物件を選定し、自然保護地域の分布状況を確認しています。
  • *9豊かな生態系を有し、地域の自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域です。
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